突然の出来事で家業を継ぐ決意を 三鷹市北野の野菜&蜂蜜生産農家「伊藤紀幸さん」

三鷹市北野の野菜&蜂蜜生産農家 伊藤紀幸さん
伊藤紀幸さん

三鷹市北野で、野菜を中心に養蜂にも取り組んでいる伊藤紀幸さん。
野菜農家としてのこだわり、地域や都市農業の未来への思いなどを伺いました。

 

伊藤 紀幸(いとう としゆき)さん

1981年生。三鷹市チベット出身で36歳の酉年。
農家歴は10年。家庭では中学時代から付き合っていた奥様と結婚。2児の父として、家でも外でもやさしいパパとして有名。
2017年4月からJA東京むさし三鷹地区青壮年部の営農副部会長に就任。北野祭礼保存会、消防団、町会行事など、地元地域の活動には積極的に参加している。
好きな食べ物は野菜全般。FC東京の熱烈なファンでもある。
「3歩歩いたらすべて忘れる」のが玉に瑕。

 

– 実家を継ごうと思われた「きっかけ」や「経緯」を教えてください

きっかけは突然、訪れました

伊藤紀幸さん(以下伊藤さん) 子どもの頃から農業をやろうと思っていたかというと、そうではありませんでした。長男である兄の存在もあり、自分が後を継ぐことになるとはまったく思っていなかったんです。
ただ、父や兄を支えていきたいとは思っていて、学生時代もあまり外でのバイトはせず、実家の農作業の手伝いをしていました。その後、私が大学を卒業した頃に父親が体調を崩してしまい、これからは兄が家業を切り盛りしていくものだと思っていました。
その矢先、ほんとうに突然に、兄が亡くなったのです。兄はまだ29歳、私はその時24歳でした。
兄が急逝し、父も体調が思わしくない状態で、家に残っている男手は私だけ。「俺がやるしかない!」と思い、家を継ぐ覚悟を決めました。

 

農業技術については、学生時代の手伝いの経験から、まったくの素人ではなくスタートできました。
わからないことはJA東京むさし三鷹地区青壮年部の仲間や父親に教わりながらやってきました。困っていることはないかと、いつも向こうから声をかけてきてくれて、青壮年部の先輩たちには本当にお世話になりました。

 

そうして、現在は就農11年目になります。周りからは、父が3代目なもので、私で4代目だと思われています。でも、私としては、兄がいて私がいるという思いがありますので、自分は5代目だと考えています。

 

– 現在は何人で畑を支えているのでしょうか?

伊藤 おかげさまで、父もその後、再び畑に立つことができるようになり、家族では両親と私の3人です。加えて、援農ボランティアの方が数名お手伝いに来てくださっています。忙しい時期には、パートさんをお願いしたり、姉が手伝いにきてくれたりということもありますね。
この人数で年間60〜70種類の野菜を作っています。

 

伊藤さんの畑、畝やビニルハウスごとに多品種が生産されている
伊藤さんの畑、畝やビニルハウスごとに多品種が生産されている
取材時は初夏。葉ものの緑が鮮やか
取材時は初夏。葉ものの緑が鮮やか

  

– 一般的な1日の流れを教えてください。

伊藤さん このような形で1日が過ぎていきます。
朝: 収穫・袋詰め・出荷
昼: 管理仕事
午後: 管理仕事・収穫・袋詰め
夜: 酔っ払う・奥さんに謝る(笑)

 

– 伊藤さんが力を入れている農作物や特別なこだわりといったものはありますか?

伊藤さん 特別に力を入れている農産物はありませんが、土づくりや栽培方法、それに販売の仕方については、こだわりやプライドを持ってやっています。

 

土づくりのこだわり

伊藤さん 土づくりでは、落ち葉の堆肥化に力を入れています。
これはとても手間がかかることで、やらなくなっている農家さんも多いのが現状です。実際にやってみると、本当に重労働なんですよ。
しかし、父親も続けてきたことですし、自分はこだわっていきたいと思っています。良い土づくりをすれば、農作物も美味しくなりますしね。

 

堆肥化中の落ち葉。登ってみるとフカフカで、中は発酵で熱いくらい
堆肥化中の落ち葉。登ってみるとフカフカで、中は発酵で熱いくらい
落ち葉が栄養豊かな堆肥に変わっていく
落ち葉が栄養豊かな堆肥に変わっていく

 

作物づくりのこだわり

伊藤さん 年間を通して、”この時期は何もない”という期間は作らないようにしています。
具体的には、ハウス栽培をうまく活用し、種まきの時期も工夫することで、1年を通して何らかの農作物をご提供できるようにしています。
ただ、品種については、どんどん新しいものに挑戦するということは行っていません。それよりも、これまで取り組んでいた品種をより良く作れるようにすること、さらに、少し時期をずらして生産できるようにというチャレンジを行っています。

 

例えば、ナスです。夏野菜のナスは、夏場に多く実をつけます。そうすると、それで消耗してしまい、暑さもあって夏バテの状態になり、秋ナスの時期まで持たないことがあるのです。通常は、剪定などによって夏場に少し株を休ませるのですが、肥料の与え方を変えて、安定して収穫できる期間を伸ばせないか工夫してみました。
専門的なお話になりますが、土に固形肥料を与える通常のやり方ではなく、即効性があるようにダイレクトな葉面散布に切り替えてみました。その結果、ナスの夏バテ防止に成功し、収穫できる期間を伸ばし、収量を増やすことができたのです。

 

ほかの野菜に関しても、ナスと同じく、ダレる時期がないように肥料の入れ方を絶えず工夫しています。こうして、同じ時期でも収穫量を増やしたり、収穫できる期間を長くしたりすることで、”この時期は何もない”ということがないよう、努力しています。

 

苗の間の距離なども、絶えず試行錯誤
苗の間の距離なども、絶えず試行錯誤

 

販売方法のこだわり

伊藤さん 市場に卸すのではなく、お客様への直売が多いので、収穫したものは取り置きせず、なるべく早くお客様に届けられるようにしています。朝採りできるものは、朝採ってその日のうちに出荷していますね。

 

– 生産された農作物の販売ルートを教えてください。

伊藤さん 三鷹市役所近くのスーパーが6割、三鷹緑化センター3割、庭先直売所が1割です。作ったものにロスを出すことなく販売できています。

 

庭先の販売機には朝採れの品々が並ぶ
庭先の販売機には朝採れの品々が並ぶ

 

– 農家さんとしての「課題」を教えてください。

一番の課題は、どうやって次に繋げていくか

伊藤さん 今は両親が元気でいてくれていますが、10年後を考えると、人を雇うことなども考えていく必要があると感じています。
さらに言えば、農業という仕事は、自分だけで終わるものではなく、次につなげていく必要のあるものだと思っています。そのためには、自分の子どもや周りの人たちに「農家」というものが魅力的に映るように働いていきたいですね。子どもたちが「農業やりたいな」と思ってくれるような、楽しそうで、やりがいにあふれる姿を見せていきたいです。

 

ただ、自分の子どもであっても、そこから先は自分の選択です。今は、子どもも畑に来て、遊びながら楽しんでくれていますが、大きくなれば離れることもあるでしょう。しかし、子どもたちが人生を考える中で、また農業に目を向け、戻ってこられる環境はきちんと作っておきたいと思います。
また、地域の子どもたちに対しても、農業の魅力と大切さを感じほしいと思い、民間学童のプログラムなどに農業体験の場を提供しています。

 

蜂蜜のラベルには、思いを込めて家紋をあしらっている
蜂蜜のラベルには、思いを込めて家紋をあしらっている

 

– 農家さんとしてこれから考えていることについて教えてください。

少しずつでも常に変化して進化していきたい

伊藤さん もっともっと農業生産を頑張り、力をつけていきたいです。農業技術を学ぶために先駆者の畑を視察させていただくと、私もまだまだ向上していけると感じます。
「またあいつ変なことやっているな」と思われるくらい、常に変化していきたいですね。

 

養蜂を始めたこともその一つですし、今日取材の際に見ていただいた野菜の中には、他ではこの時期にはやっていないようなものもあるんです。でも、そういった挑戦の中から、少しずつでも良い作物づくり、農家としての前進ができればと思っています。
そのためには、周りの仲間との情報交換や他地域の視察を通して、いいことをどんどん取り入れていくこと、そして何よりも、自分の畑でしっかりと野菜に向き合い、些細な変化にも気付ける力を身に付けていくことが大切だと思っています。

 

また、そういった新しいチャレンジの際、農家の先輩として父に相談をすることもありますが、決断はすべて自分で行っています。実は、家を継ぐとき、父が「農業ではいくらでも失敗していいし、チャレンジしていい」と言ってくれたんです。急に農家を継ぐことになったものの、こうしていままで挑戦を続けてこられたのは、その言葉のおかげかもしれません。

 

北野地区の再開発など課題は多いながらも、伊藤さんの眼差しは明るい
北野地区の再開発など課題は多いながらも、伊藤さんの眼差しは明るい

 

少しのロスもなく、農作物を皆様に届けたい

伊藤さん 先ほど、収穫した野菜はロスなく販売できているとお話ししましたが、出荷前の段階でのロスはどうしても発生します。特に、ミニトマトやいちごなどの作物の場合は、割れがあったりして、味に問題はなくても商品としては出荷できないものがあるのです。
そこで、新しいチャレンジとして、そういった作物のドライフルーツ加工に取り組んでいます。たんに作物のロスを減らすだけではなく、野菜、蜂蜜に続く新しい商品として、価値を感じていただけるものを皆様にお届けしたいと思っています。
近いうちに販売をスタートしていく予定ですので、どうぞ楽しみにしてください。

 

伊藤園さんの生産品リスト
(春)いちご・ほうれん草・レタス・野菜苗
(夏) きゅうり・ナス・トマト・枝豆
(秋)ブロッコリー・キャベツ・カリフラワー・大根
(冬)里芋・長ネギ・小松菜・ほうれん草
※他にもたくさんあって書ききれないそうですが年間60〜70種類を生産しているそうです

 

– 伊藤さん、ありがとうございました。

 

取材:米川充 / 横堀陽子 / 苔口昭一
文 :苔口昭一 (校正:米川充)
撮影:横堀陽子 / 苔口昭一

 

伊藤紀幸さんの野菜を購入できる場所

庭先直売所「伊藤園」
住所: 東京都三鷹市北野3-3-26
自動販売機の販売になります。

JA東京むさし三鷹緑化センター
住所: 東京都三鷹市新川6-30-22