三鷹市北野で野菜販売農家をされている森屋賢さんに農家になった経緯や現状、これからについてお話を伺いました。前篇・後篇に分かれてお届けします。
森屋賢さん
日本体育大学卒業。28歳のときに三鷹市北野の野菜の販売農家を継ぎ、森屋賢さんで四代目。両親と畑を守っている。「元気もりもり 森屋です」という自己紹介が子どもを中心に評判。現在は家の畑を管理しつつ、次世代農家の団体「JA東京むさし三鷹地区青壮年部では農政部会長を務め、農地を繋げていく活動をしている。
– まず、農家を継ごうと思ったきっかけや経緯を教えてください
スポーツ関係の仕事や勉強をしてきたが、28歳のときに農家を継ぐことを決断
森屋賢さん(以下、森屋さん) 実は私、大学時代、日本体育大学に通っていて、アウトドア&リゾートを専攻していました。スポーツはトライアスロンをやっていたんです。今はこんな体型なので「レスリングをやっていましたよね?」と聞かれますけどね(笑)
大学卒業後は障害者の方向けに水泳指導をしていました。農家とは、ほど遠いことをしていたんですよ。
大学では全国の運動神経が良い人が集まる大学でしたので、ナンバーワンを取るのは難しく、挫折も味わいました。
その後、障害者の方向けの水泳指導をおこなう仕事を辞め、オーストラリアにワーキングホリデーの制度を使って行っていました。オーストラリアでは、ライフセイバーをしていましたね。
そのときは、好きなことでもあるスポーツの世界でこれからも仕事していければいいなぁと思っていました。
日本に帰ってきてからは、以前働いていた会社から「もう一度、戻ってこないか?」と声をかけていただき、水泳指導の仕事を再開しました。
そして、28歳のときでした。
あるとき、「そろそろ継いでもいいかな」と思ったんです。
どこの農家もそうだと思うのですが、農家の長男坊で生まれた以上、どこかで継がないといけないというのが頭にありました。家族には、好きな大学に行かせてもらえ、好きなことをさせてもらえ、海外に行かせてもらえ
たという感謝の気持ちもありましたし。
でも、本心はスポーツに関わる仕事がやりたくてね…笑
スポーツ業界にずっといて、農業に活きていることは、私はいつも良い仲間に支えられていることだと思います。
楽しいとき、辛いときを共有する仲間がいることは私の人生においては、とても重要なことと感じています。
– では、森屋さんは定年を迎えずに継ぎましたが、好きなことをして定年後に継ぐという選択はなかったのでしょうか?
周りの環境変化や空気感もあり継ぐことを決意
森屋さん 三鷹の農家は若い人が多いんです。
周りには20代のうちにサラリーマンを辞めて農家を継ぐ人もいます。
同じ農家の根岸隆好さん(野菜生産・販売農家)や須藤金一さん(植木生産農家)とは中学校の同級生でした。その2人が先に農家を継いでいたことにも影響を受けたのかもしれません。
– 子どもの頃、農業をしているご両親を手伝う機会があったのも大きいのでしょうか?
森屋さん 子どもの頃は、畑に行ったことがなかったですし、農家を継ぐという気持ちもなかったんですよ。
なぜ、継ぐ気になったかというと、地域のお祭りでお神輿を担がせてもらったり、様々な活動に参加したりするなかで、周りの方から「いつ農家を継ぐんだい?」と言われていたからです。最初は「いやいや(笑)」とか言っていたんだけどね。そういう周りの空気のようなものが大きいと思いますね。
– 森屋家は賢さんで何代目になるのですか??
森屋さん 森屋家の畑は曾祖父からで、私で4代目。元々、小作人だったんです。戦後の農地改革で畑を譲ってもらったのが始まりです。
このあたりの地域は「伊藤」が多い地域なのに、ここだけポツンと森屋がある。おそらく、伊藤家に仕えていたのではないかと思ってますが、実際のところはわかりません。
現在は、祖父、祖母は引退して、両親と私でおこなっていますよ。
農業ボランティアの方にもお手伝いしていただいています。
– 子どもが農家を継ぎたいと言ったらどうしますか?
森屋さん やはり、先祖代々守ってきた畑なので、正直、嬉しいですよ。
でも、子どもの人生だから自由にやってほしいです。
私は28歳で手伝いはじめましたが、定年を迎えてから一緒におこなうのもいいと思いますね。
– 話を少し変えます。現在、野菜の販売農家をしている森屋さんの「こだわり」を教えてください。
こだわりは「シンプルにしっかりしたものを作り提供すること」
森屋さん 野菜の自動販売機を置いているのですが、このあたりは農家さんも多いので、「しっかりしたものを出す」ということにこだわっています。買ってくださる方に、しっかりしたものを出していれば、継続して来ていただけると思っています。変なものを出していると、「あそこの農家のはたまに変なものも出すよ」と他のところに行ってしまう。本当に正直なのです。
のらぼう菜や内藤とうがらしのような新しい野菜を取り入れつつやっています。
ただ、うちは父親が新しい野菜をどんどん取り入れるという方針ではなく、昔ながらのやり方でおこなっている農家です。
– こだわりは「しっかりしたものを出す」ということでしたがそのやり方(農法)を教えてください。
A品率をあげる取り組み
森屋さん A品率を上げるために色々と取り組んでいます。例えば、ナスは、傷つかないように間隔を空けて育てています。
森屋さん あとは減農薬でしょうか。例えば、ナスの周りにソルゴーを植えることで、アブラムシ対策となり減農薬に効果があります。加えて、風避けにもなるのです。
減農薬で安心安全の野菜づくり
森屋さん 減農薬の取り組みとして、樽栽培もおこなっています。樽で栽培すると、土が病気なった場合、樽の中を入れ替えるだけでよいし、ハウスの中で育てる際に水や栄養をタイマーで機械的に与えることができます。
導入費がかかるため、、JAや東京都の補助を活用させていただきながら取り組んでいます。
これらは、2015年4月に都市農業振興基本法(※1)が成立したことにより東京の農家でも地方農家と同じように補助が活用できるようになりました。
※1 都市農業振興基本法が成立したことで、東京都の農地も守るべき農地であるということが法律で定められた。
森屋さんの畑で採れる野菜リスト
キュウリ・ナス・トマト・ミニトマト・ピーマン・カラーピーマン・甘とう・トウガラシ・ニガウリ・カボチャ・玉ねぎ・ジャガイモ・人参・大根・聖護院大根・赤大根・キャベツ・紫キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・白菜・カブ・スナップえんどう・小松菜・ほうれん草・チンゲンサイ・トウモロコシ・ニンニク・のらぼう菜・プチヴェール等
後篇では、森屋さんの作った野菜の販路やいま考えていることについてお聞きしていきます。
→ 大好きなスポーツ業界から家業の野菜農家を継いだ「元気もりもり」森屋賢さん(後篇)
取材:宇山淳子 / 横堀陽子 / 苔口昭一
文 :苔口昭一
撮影:横堀陽子
森屋賢さんの野菜を購入できる場所(三鷹市内)
住所:〒181-0003 東京都三鷹市北野1-5-43
自動販売機のみの販売です。
公式ページ: 森屋農園