公開日: 2016/11/23
区分け線

三鷹で300年。銀行マンから農家を継いだ新川の植木生産農家「須藤金一さん」


区分け線
須藤金一さん(植木生産農家)

三鷹市新川の植木農家「須藤金一さん」

三鷹市新川で300年続く家業を継いだ須藤金一さんに、植木の生産農家になったきっかけや想い・こだわり、これからやっていきたいことについて伺いました。

 

須藤金一さん

1978年生まれ。三鷹市新川の植木生産農家。26歳のときに銀行員を辞め、14代目として家業の須藤園を継ぐ。もう1つの顔では、JA東京むさし三鷹地区青壮年部の部長(取材時)として若手農家のリーダーとしての顔も持つ。都市農業の価値を地域の方々に伝え、将来も三鷹市に農地を残していくことをミッションとして、様々な講演活動や市や大学と連携に取り組んでいる。

 

– 家業の植木生産農家を継ぐ!と考えるようになったきっかけ、経緯を教えてください。

家を継ぐことは、自然な流れ

須藤金一さん(以下、須藤さん) 4人兄弟の中で男は私1人だったので、子どものころから「お前に継いで欲しい。頼むよ。」といったことを祖父、祖母だけでなく親戚からも言われていました。
私自身は大学を卒業した後、すぐに家業を継いでもいいと考えていたんですよね。しかし、子どものころとは、社会のあり方や親の考え方も変わってきていました。そこで、大学卒業後すぐに継ぐのではなく、一度、外の世界に出てもいいかなと思い、銀行員として社会に出たんです。

そして、私が社会人を4年ほどやった26歳のときのことです。父がJAの常勤の仕事をすることが決まり、父や叔父たちがやっていた植木の生産農家が人手不足の状況になりました。そこで、銀行を退職し、家を継ぐという決断をしたんです。「結婚」が決まっていたというのもあり、タイミングとしてはちょうど良かったと思いましたよ。

※ 植木の生産農家とは?
街路樹や公園で使われるもの、マンション・ビル、個人宅の植栽で使われる植木を生産している農家さんのことを指す。種や挿し木・接ぎ木で繁殖させて販売するまでは育てるのに数年かかる。生産したものは、造園屋さんや仲卸業者さんなどに卸していることが多い。

– 一度、社会に出る際に、多くの選択肢の中から、なぜ銀行員を選択されたのでしょうか?

須藤さん 農家も経営者なので、銀行員をしていれば、経営者と接点が持てるというのが魅力的でした。「お金」を通して、いろんな業種や社会について広く見ることができると思ったことも大きいです。経済学部だったので、金融関係に行く人も多かったですし、就職先は銀行の一択でしたね。

 

– 学生時代から銀行員時代の経験の中で、どんなことがいまに活きていますか?

須藤さん 学生時代は、アメリカンフットボールをやっていました。そこで学んだチームづくりやチームをまとめるスキルが、今でも活きていると思います。チームをまとめる上では、「役割や目標を掲げるようにすること」を大切にしています。
例えば、JA東京むさし三鷹地区青壮年部で部長という役職をやっておりますが、「私たち若い農家が主体で地域の方に農業を知ってもらう活動をする」ということを掲げてやっています。

銀行員時代の経験では、「経営を見てきたこと」が、現在経営者としてやっている中で活きていますね。あとは、上司からは「お客様のために・・・」とよく言われていました。農家も、この東京では、周りの住民のみなさんの理解なくして農業はできません。また、生産した植木は仲買さんや造園業者さんに卸すことがほとんどなので、最終消費者さんが見えにくいのですが、銀行時代の経験から「最終消費者の方にどうやったら喜んでもらえるのか?」を考えて仕事することを大切にしています。

 

– お父様がJAに携わっている間、植木生産農家としての知識や技術はどうやって学んでいったのでしょうか?

須藤さん 以前から、叔父が家の隣で植木生産農家をしながら家の手伝いをしてくれていました。
私は叔父に指導を受け、生産農家の仕事を学んでいくことができました。
今は、叔父の息子も入り、一緒にやっていますよ。

 

– 須藤さんは農家として、何代目になるのでしょうか?

須藤さん 私で14代目です。三鷹市新川で約300年続いている農家です。
昔は、野菜農家でした。戦後になり、祖父が3ヘクタールの農地を効率よく使うために、植木農家を始めました。ですので、植木生産農家になってから数えると、私で3代目になります。

 

3ヘクタールの農地内は軽トラックで移動する

3ヘクタールの農地内は軽トラックで移動する

 

ido

農地にある井戸。災害時の水としての活用も想定している。

 

– 植木の生産者としての「こだわり」を教えてください。

「プロ意識」を持って生産すること

須藤さん 「お客さんに喜んでもらうこと」を常に意識しています。
植木の生産で重要なのが「根」です。お客さんのところに持っていくとき、一度、掘り上げないといけないのですよ。その際に「根」が痛まないようにおこなう作業が「根回し」というもの。よく仕事を順調にまわすため、あらかじめ説明することでスムーズに話を進めることをいったりしますよね。その「根回し」の語源が植木なんです。植木の場合、あらかじめ根を切っておく。そうすると白根という根が出てきます。この白根は水をよく吸収するんです。
根回しの他にも樹形を整えることや土作りをしっかりやることで、最終消費者の方に喜んでもらえるものを作っています。「須藤園の植木なら絶対枯れない」といった信頼をつくっていきたいですね。
「プロ意識を持っていないといけないな」と強く思います。

 

ハウスでは、種や挿し木からある程度の大きさまで育てている

ハウスでは、種や挿し木からある程度の大きさまで育てている

 

須藤さん このほか、同じものを規則正しく植えることにより効率化を図っています。空いているところに植えていくと、管理が難しくなり効率が悪くなります。つまり、植木を売り切るまでは空いているからといって、何かを植えることはないです。新しいものを植える際は天地返し(※)することも大切ですしね。
※ 深耕し、耕地の表層と深層を入れ替えること

 

同じ種類の植木が1000本きれいに並んでいる

同じ種類の植木が1000本きれいに並んでいる

 

地域資源を活かした堆肥づくりで地域貢献とコスト削減に

須藤さん 堆肥づくりにおいては、府中市の国立大学法人東京農工大学の馬術部から馬糞を提供していただいており、その量は1回につき3トンほどです。伐採した植木をチッパーという機械で粉砕し、馬糞とよく混ぜると堆肥ができます。この堆肥を赤土と混ぜて使うことで、地力(ちりょく)を高めることができるんですよ。
堆肥業者さんから堆肥を買うとお金がかかるので、コスト削減にも繋がっていますね。

 

%e9%a6%ac%e7%b3%9e

須藤さんの農地にある東京農工大学提供の馬糞

 

– 植木の樹種を決める際はどのようにしているのでしょうか?

須藤さん なるべくいろんなものを作るようにしています。私が家業に入り、約10年で樹種をだいぶ変えました。新しく作りはじめたものには、シマトネリコやオリーブがあります。
新しい樹種情報については、よく取引する仲買さんから聞いて参考にしています。仲買さんが主催する研修に年1回行き、新しいものを生産しているところを見に行っていますね。あとは、三鷹の植木農家さんたちと普段からニーズや売れ筋についての情報交換をして、参考にしています。

 

– 植木の生産農家としてのやりがいを教えてください。

人より長生きするため、後世に残っていくこと

須藤さん 植木は後世に残っていくことですね。人間以上に生き残りますので、記念樹が売れたりしますよね。場所は言えませんが、皆さんがご存知な有名な庭園や企業さんにも卸しています。

 

子どもと同じように1本1本に愛着がある

須藤さん 種や挿し木から植木を作っているのですぐには出荷できないんです。だから、自分の子どものように育てます。1つ1つの木に対する愛着が大きいんですよ。植木も子どもと同じで手をかけただけ結果がでますから。なので、お客さんのところに植え替えたあと、3年以内くらいであれば、須藤園の植木か判別できますよ。

 

植木の生産農家としてのやりがいを話す須藤金一さん

植木の生産農家としてのやりがいを話す須藤金一さん

 

– 植木の生産農家の課題を教えてください。

須藤さん やはり「情報発信」が課題ですね。
植木業界は公共事業が多いときは需要があったのですが、現在は公共事業がなくなってきています。なので、販売形態を広くし、多くの人に買ってもらえるように情報発信などをしていかないといけないと思っています。
いまは、消費者の方が三鷹の植木を購入できる「三鷹緑化センター」をうまく活用するための情報発信をしていきたいですね。

 

– これからやってきたいことを教えてください。

三鷹ブランドとなる植木を生産したい

須藤さん 「三鷹に行けばこんな植木が揃っているよ」と思ってもらえるようにしていきたいですね。野菜の「三鷹野菜」ブランドのように、「三鷹植木」のようなブランドをつくっていきたいです。三鷹の植木組合でも、そのような話がでてますね。

 

– 須藤園の植木を卸すのは仲買さんが多いとのことでしたが、一般市民が購入することはできるのでしょうか?

須藤さん 三鷹緑化センターにも卸しているので購入できますよ。例えば、オリーブはかなり手頃な値段で販売しています。他の植木生産農家さんが生産したものもあります。質の高い植木が揃っていますので、是非、一度行ってみてください。

 

須藤さんが生産する植木リスト
◯作っている植木(代表的なもの)
・オリーブ・フェイジョア・トキワマンサク・シマトネリコ・シラカシ・アラカシ・サツキ・ギンバイカ・ロドレイア・キンモクセイ・サカキ・ハナミズキ・常緑ヤマボウシ・ツゲ玉・カキ・キンポウジュ・ウメ・ゴードニア・カイズカ・オガタマ・イチゴの木など

◯今、三鷹緑化センターで買えるもの
・オリーブ・フェイジョア・トキワマンサク・カイズカ・オガタマ・イチゴの木・ヒサカキ・ツゲ玉・シマトネリコ・アラカシ・常緑ヤマボウシ
です。

 

– 須藤さん、ありがとうございました。

 

取材:横堀陽子 / 苔口昭一
文 :苔口昭一
撮影:横堀陽子

 

須藤さんの生産した植木が購入できる場所

須藤園(JA東京むさし三鷹緑化センターで植木販売) − 三鷹市新川の植木農家 須藤金一さん

三鷹緑化センター
住所:東京都三鷹市新川6-30-22
定休日:なし
※休業日は3月・9月の最終平日、年末年始(12月31日~1月6日)、夏季休業のみ
アクセス:JR三鷹駅南口より小田急バス
・野ヶ谷行き
・仙川行き
・晃華学園東行き
すべて三鷹農協前下車徒歩5分
・公式ページ:須藤園

 

«
»
区分け線

直売所紹介

区分け線









写真で都市農業を応援!無料素材サイト「アグリフォト」presented by まちなか農家プロジェクト
三鷹産エディブルフラワー「hanayaka」食べられるお花、できました