公開日: 2018/03/04
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「三鷹のキウイフルーツといえば島田果樹園」と言われるブランドを目指す – 島田果樹園の島田穂隆さん


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島田穂隆さん

三鷹市大沢で、家族で果樹園を営んでいる島田穂隆さん。
果樹農家としてのこだわり、島田さんが主に生産されているキウイフルーツやブドウにかける思いを伺いました。

 

島田 穂隆(しまだ ほたか)さん
1982年生。東京都農林総合研究センターの後継者農業技術研修制度を修了後、2010年に就農。JA東京むさし三鷹地区青壮年部以外に、北多摩果樹研究会に所属。山梨、長野、茨城などの先進地視察研修に行き、自身の畑によりよい技術や品種を取り入れている。車、バイク、フィットネスクラブ、ファッションなど、趣味の幅が広い。スポーツ栄養学に詳しいとか詳しくないとか。

 

– 実家を継ごうと思われた「きっかけ」や「経緯」を教えてください

フラフラしていて…親の薦めで…

島田穂隆さん(以下島田さん) もともと、明確なビジョンがあってのことではありませんでした。高校卒業後、特に行きたい学部や就きたい職業がなかったところを、とりあえずという感じ大学に進学、電気工学を学んでいました。しかし、講義にも大学生活にもあまり魅力を感じることが出来ず、結局は中退。

 

その後は、アルバイトをしたり、中途採用で会社員になったり、またフリーターになったりと、4年ほどフラフラしていました。

 

そんなとき、親が、農業後継者向けの研修を勧めてくれたんです。立川市に、東京都農林総合研究センターという、都の農業試験と研究のための機関があり、そこが農業技術研修生という、農業後継者向けの1年間の研修コースを開講しています。

 

勧められるままに申し込み、通い始めたことで、農業の面白さに気づき、家を継ぐ気持ちが固まってきました。

 

その後、研修修了とともに就農し、現在8年目になります。

 

– 島田果樹園としてキウイフルーツを始められた理由を教えてください。

島田さん キウイフルーツは父の代から始めました。そもそも、果樹農家としても父が初代、私が2代目になります。

 

島田家の本家はもともと西東京だったと聞いています。先祖がどこかのタイミングで三鷹に移り住み、この畑などがある土地は300年ほど前からうちの地所だったようです。ただ、他の農家さんのように、何代前から畑をやっているという明確な記録はなく、祖父も農業以外の地元の活動に熱心でしたので、父の代から農業に本腰を入れ始めたような感じです。

 

父がキウイフルーツを始めたのは、三鷹が地域ぐるみでキウイフルーツに取り組み始めたのと同じ時代です。三鷹市牟礼に小林さんという先進的な果樹農家さんがいらっしゃり、その小林さんがキウイフルーツを始めたので、その動きにのって栽培をスタートしたと聞いています。

 

現在、島田果樹園ではキウイフルーツとブドウを主に生産していますが、イチジクや烏骨鶏をやっていた時期もあったようです。キウイフルーツが始まったのは私が生まれてからなので、子どもの頃は今のキウイ畑が竹やぶだったのを覚えています。

 

今ではすっかり、「三鷹の特産はキウイフルーツ」と言われるようになっています。これは、キウイフルーツの特産地であるニュージーランドと三鷹の関東ローム層の土壌が似通っていたことに加えて、無農薬や低農薬で生産でき、かつ管理もしやすいという点が、この地域の都市農業に適していたのだと考えています。

 

島田果樹園の畑は奥までキウイフルーツの棚に

 

– キウイフルーツの生産技術についてはどうやって学んだのでしょうか?

ブドウの生産技術をキウイフルーツに応用

島田さん 私は、三鷹や西東京など北多摩地域の果樹農家有志による「北多摩果樹研究会」に所属しています。この会は、「俺はこうやったらうまくできた!今度、見学しに畑に来てみてみなよ」と気軽に言い合えるとてもオープンな会なんです。この会の仲間には、生産技術や知識の共有、実際のノウハウの交換などで大いに学ばせてもらっています。

 

ちなみに、仲間の果樹農家から情報を得ているのは、ブドウの生産技術や知識で、実は、キウイフルーツについてはこれといって教わっていないんです。
というのも、キウイフルーツはスーパーなどでも輸入品が並んでいるように、国内ではそれほどメジャーな園芸作物ではないのです。そのため、これが定石というような生産手法は確立されていません。

 

その点、ブドウは技術が確立されている上に、生産方法がキウイフルーツに似ています。そして、実際に試してみても、そのまま活かせることがかなり多い。
キウイフルーツと並んでブドウを主力にしていることもありますので、私は主にブドウの技術を学び、それをキウイフルーツに応用するというアプローチを取っています。

 

また、研究会での情報交換だけではなく、遠方の特産地にも積極的に学びに行っています。先駆的な果樹農家さんは、『現代農業』という農家向けの雑誌で取り上げられることも多いので、そういったところにお話を伺いに行っています。
都内だと府中市、ブドウの特産地である山梨県、名人と言われている茨城県笠間市の生産農家さんなど、訪ねているところは複数あります。わからないことが出てきたら、現地に行ってお話を聞いてくることもありますね。
また、視察を通じて知り合う人たちの中にも、技術の高い人、新しい取り組みにチャレンジしている人がいますので、そういった出会いも大切にしています。

 

そうして、先輩方や仲間たちから得た知識や技術を実践に活かし、試行錯誤を繰り返して蓄積してきたものが、自分の生産技術になっています。

 

島田さんが生産するシャインマスカット

 

– キウイフルーツやブドウを生産する上でのこだわりを教えてください。

摘果(てきか)ではなく摘蕾(てきらい)が、高い品質を保つポイント

島田さん 従来のキウイフルーツ栽培では、よい果実を得るために、周りの実を摘み取る「摘果(てきか)」を行っていました。しかし、私の畑では、つぼみの段階から数を制限する「摘蕾(てきらい)」を行っています。これは、ブドウも同様で、早い段階で房の数を制限することが品質を高めることにつながります。

 

キウイフルーツやブドウは、花から実になる段階よりも、つぼみから花になる際、つまり花を咲かせるために非常に多くのエネルギーを使います。
このため、つぼみの状態のときに数を減らしておくと、開花のためのエネルギーを、果実を大きく肥らせるためのエネルギーとして使うことができるのです。
また、つぼみを落とさないと、すべての花に対して受粉作業をすることになります。摘蕾によってその作業を軽減すことができますし、使う花粉も減らすことができます。実は、花粉というのは、農業の資材としてはそれなりに高価なものなのです。このため、摘蕾することは、作業量と花粉の使用量を減らし、コストの削減にもつながります。

 

島田さん「つぼみの状態で形のおかしいものは、実も良くないので落とします。1つの枝で6つくらいつぼみがあれば、うち3つくらいは落としています。」

 

消費者のニーズが高い品種に入れ替えていく

定期的に古い木を切り、新しい品種を入れるようにしています。
例えば、ブドウなら10年で入れ替えるようにしています。10年も経つと、新しい品種が出てきて消費者の好みも変わってきます。ですので、今栽培している品種、慣れた品種にこだわることはせず、その時代と消費者のニーズに合った品種にどんどん入れ替えています。

 

必要な成分を足してあげる土づくり

土は堆肥を入れてあげると力を増してくれます。収穫が終わった11月から12月の時期に、穴を掘って肥料をあげています(元肥という)。
また、三鷹の土はもともと肥料成分が強く、キウイフルーツに向いています。以前、うちの畑の土の成分を調べるために、検査に出したことがあります。その結果、豊富な肥料成分を持つ土壌であるという結果が出ました。その検査結果をもとに、足りない成分だけを肥料として入れているため、肥料代も安く抑えられています。

 

剪定でもブドウの技術をキウイフルーツに応用

キウイフルーツの木々の管理、枝の剪定についても、ブドウの栽培技術を活用しています。
視察に来た方から、「なぜここを切るのか?」と質問されることもあるのですが、長年ブドウも一緒に栽培し、応用と試行錯誤を重ねて体感的に身につけてきたものもので、なかなかうまく説明できません。つまり、勘や感覚的なものです(笑)

 

一緒に農業をしている弟の場合は、作業をしながら教えてきたこともあって、数年やっているうちに自然にわかるようになったようです。
ブドウの剪定方法には、「短梢剪定(たんしょうせんてい)」と「長梢剪定(ちょうしょうせんてい)」の2つがあり、後者は技術が必要で難易度も高いのですが、専門誌や視察で学んだことを見よう見まねで実践しているうちに、いつの間にか会得できてしまいました。
キウイフルーツを生産する農家は、ブドウも併せて生産すると技術力が上がると思うので、ぜひオススメしたいですね。

 

– 生産されているキウイフルーツとブドウの品種と生産量を教えてください。

島田さん 三鷹の果樹組合に所属する農家さんが生産するキウイフルーツの9割が「ヘイワード」という品種です。「ヘイワード」は収穫時期も長く生産者にも人気の品種です。

 

島田果樹園では、キウイフルーツだけで年間7トンを生産しています。内訳は、約4トンが緑色の「ヘイワード」と「香緑」、2.6トンが黄色の「東京ゴールド」、500kgは赤色の「紅妃」となっています。

 

サイズは、5Lや4Lといった大きなサイズのものも生産していますが、それらはほぼ品評会用になります。
売れているサイズのボリュームゾーンは、以前は3Lサイズでしたが、最近は2Lサイズへと変わってきています。
これは消費者の世帯人数が減ってきている影響が大きいようです。贈答品でも、2Lサイズで1箱2kgくらいの注文が多くなってきていますね。
このため、生産している7トンのうち、半分くらいは2Lサイズにしています。

 

ちなみに、先程ご説明した摘蕾を忘れる(つぼみを取り忘れる)と、一気にMサイズ以下の実になってしまいます(笑)

 

また、品種構成としては、地元東京の品種であり、消費者からの人気も高い「東京ゴールド」を増やしていこうと思っています。

 

島田果樹園さんで育つ「東京ゴールド」

 

– 一般的な1日の流れを教えてください。

島田さん 基本的な流れとしては、まず起きたら畑に行き、潅水設備のバルブを回す。その後は、その時期その時期に必要な作業を日が暮れるまでやって、1日を終えるという感じです。当日の作業スケジュールも特に決めておらず、その日の畑の状況を見て判断しています。
また、うちの畑は、父、弟、私とで、それぞれ受け持つ畑を分けていて、日々の管理もそれぞれが責任を持ってやっています。

 

– 生産された農作物の販売ルートを教えてください。

島田さん 庭先直売所と全国発送のみです。

 

農家としてのやりたいことについて話す島田さん

 

– 農家としての「課題」と「対策」を教えてください。

島田さん 農家としての課題は大きく3つあります。

 

1つ目は「農業所得の向上」

島田さん 農業を継続していく上で、いちばん大切なことだと考えています。「直売だから安く販売する」ではなく、高品質な物を生産し、それに見合った価格設定をし、その価値観に合うお客様をターゲットとしてマーケティングを行うことを心がけています。

 

キウイフルーツについては、大口の注文をしてくださるお客様から、その年の出来についての感想や、どのような品種を好まれるのかなどをヒアリングさせていただいています。
ブドウについては、ブドウ狩りのお客様を受け入れていますので、お客様からダイレクトに「○○という品種はないの?」といったニーズを聞くことができます。最近では、「シャインマスカット」という品種が話題に上ることが多く、作付を増やしてかなり売れるようになりました。

 

そういった取り組みを通じて農業所得の向上を目指していますが、私が就農してからの8年間で、着実に成果を上げることができています。

 

また、新しいことだけではなく、収益につながらないことを「やめる」という視点も大切ですね。
我が家も、昔から烏骨鶏や銀杏、いちじくなど、いろいろなものを試してきましたが、手間ばかりかかるもの、儲からないものからは手を引いてきました。
品種に特別なこだわりがあるわけではありませんので、今注力している東京ゴールドやシャインマスカットのほかに、消費者のニーズが高い新しい品種が出てきたら、どんどん取り扱っていきたいと思っています。

 

2つ目は「JGAPの取得」

島田さん 数年後に東京オリンピックが開催されます、その選手村で食材を提供するためには、「JGAP」という生産・農場管理の認証基準の取得が絶対条件となります。JGAPは、Jが付くことからわかるように日本版の基準で、国際的にはグローバルな認証基準である「GAP」というものがあります。今後は、「JGAP」どころか「GAP」の取得も当たり前の世の中になっていくと思い、現在対策を検討しています。
消費者の安心安全の向上にもつながりますし、農薬を周辺に飛散(ドリフトという)させないということを、近隣の方々に示すことにもなります。
また、先ほどお話した「東京ゴールド」は今とても人気があり、販売開始から1週間で2.6トンの全量が出てしまうほどです。今後は、こういった高いニーズのある品種を、アジア圏に対して輸出していくことも検討したいと思っています。そうなると、「GAP」の取得は必須になってくるわけです。

 

3つ目は「国の農業政策への働きかけ」

島田さん ある意味、都市農家としては、収益を高めていく以上の難題です。地価が高いがために、純粋に農業を続けていきたいだけなのに、相続が発生すれば畑を手放さなければ賄えないだけの税金が発生してしまいます。
ただ、この問題は1人ではどうすることもできないので、JA東京むさし三鷹地区青壮年部での活動を通じて、国の政策をきちんと理解し、その上で各方面に都市農業の重要性を伝えていきたいと考えています。
三鷹の都市農業は、消費者と生産者との距離が近いことが、他にない強みだと思います。畑で農業をするだけでなく、農と人とを結びつける企画をやっていきたいと思っています。

 

また、一生産者としては、三鷹の特産品である「キウイフルーツ」に関わる果樹農家であることを活かし、生産者同士で技術を共有して日本一の高品質を実現し、多くの方に価値を認識してもらいたいです。
まずは、その第一歩として、「島田果樹園のキウイフルーツを食べたい!」という消費者の方を増やしていくため、「三鷹のキウイフルーツといえば島田果樹園」というブランディングに力をいれていきたいと思います。

 

島田果樹園さんの生産品リスト
<ぶどう>
8月下旬 藤稔
9月中旬 シャインマスカット、雄宝、バイオレットキング、クイーンニーナ、ブラックビート、黄玉、ウインク

<キウイ>
10月上旬 紅妃
11月上旬 東京ゴールド
11月下旬 ヘイワード、香緑

<蜂蜜>
5月から順次取れ次第

 

– 島田さん、ありがとうございました。

最後にサービスショット

 

取材:米川充 / 横堀陽子 / 苔口昭一
文 :苔口昭一 (校正:米川充)
撮影:苔口昭一

 

島田穂隆さんのキウイフルーツや葡萄などを購入できる場所

庭先直売所「島田果樹園」
住所: 東京都三鷹市大沢6-3-23
対人での販売になりますので中に入りお声がけください。

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