公開日: 2023/04/09
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多肉植物などいまの需要に応じて「植木の地産地消」を目指す – 三鷹市上連雀 竹内園 竹内康浩さん


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三鷹市上連雀の植木農家「竹内 康浩さん」

三鷹市上連雀の植木農家「竹内 康浩さん」

竹内 康浩(たけうち やすひろ)さん

1980年生まれ。高校卒業後に家業を手伝いながら、海外の造園事情などの視察を経験し、知見を広める。就農した後、JA東京むさし三鷹地区青壮年部副部長や地元消防団員などを務めながら地域活性事業に積極参加している。

 

今回お話を伺ったのは、三鷹で植木農家になり13代目となる竹内園の竹内康浩さん。植木農家としては3代目となり、竹内園では現在、植木生産・販売と造園業をおもに手がけています。また、植木生産のノウハウからブルーベリーの木を育て、果樹を地域の販売店やクラフトビールの原材料として出荷したりもしています。

 

「植木農家」と聞いて、具体的にどのような内容の仕事をしていて、実際どこでどのような植木を生産しているのか、を思い浮かべる人はそれほど多くないかもしれません。ですが、目を凝らせば私たちの身の回りには庭や公園緑地、施設などに植えられた植物・植木があふれるほどあり、三鷹にもそれらを手がける農家さんと畑が数多く存在しています。実際に覗(のぞ)いてみるとおもしろい、でも意外と知らない植木農家さんについて、魅力を知ってもらえたら良いなと思います。

 

– 家業を継ごうと思われた「きっかけ」や「経緯」を教えてください

子どものころから家業を意識。海外視察に出て、知見を広げてから就農

竹内 康浩さん(以下、竹内さん) もともと10代から家の仕事の手伝いはしており、長男で、いつかは自分が家業を継ぐことになるだろうと何となく思っていました。

高校を卒業した18歳頃に、竹内園が加入している造園連((社)日本造園組合連合会)のアメリカ・ソルトレイクシティ視察に年長の人たちに混じって参加し、庭園やナショナルパークを見学したことが転機になりました。それから、個人でカナダへの短期留学やイギリスなどへ海外旅行にも行き、植物や庭、公園などを見て勉強して回ったあと、日本へ帰って正式に就農しました。
 

お話ししますと高校卒業後、少しだけ音楽の勉強をしていたこともありました。ですが、そのさなかに海外視察の経験を経て、本格的に植木農家や造園業の道に踏み出すことを決意しました。

 

三鷹市上連雀7丁目の住宅街のなかにある竹内園の植木畑。庭木としてよく使われるコニファー(常緑性の針葉樹の総称)が見えます。畑地は約100年くらい前に代替用地として割譲されたそう

三鷹市上連雀7丁目の住宅街のなかにある竹内園の植木畑。庭木としてよく使われるコニファー(常緑性の針葉樹の総称)が見えます。畑地は約100年くらい前に代替用地として割譲されたそう


 

– 竹内園はいつから植木や造園を手がけるようになったのですか?

祖父が植木生産を、父が造園業を始め、自身は両方を手がける

竹内さん 竹内園の植木生産は、私の祖父の代でそれまで代々続いた野菜農家から切り替える形で始められました。当時は日本の高度経済成長期で、新しい施設や建物、住宅が大量につくられ発展するなか、植木生産の需要が特に東京近郊でも増えたようです。そうした状況で植木農家の道を祖父が選択したと聞いています。
 

また、造園業は私の父の代で始まりました。祖父は植木生産、父は造園工事といった形で別れていたのですが、私はその両方を手がけています。私が就農した頃は親子3代にわたって現役でやっていました。

今は父と私、私の弟と通いで来てもらっている職人さんの4人で植木・造園の仕事をしています。

何事も研究家肌で、生涯現役で植木に熱心だった祖父を見て育ったので、私もその姿勢を見習っていろいろと植木や造園について、日々研究や勉強しながら仕事をすることを心がけています。

 

上連雀2丁目の竹内園の畑の入り口には、造園技術を活かし刈り込まれた、かわいい動物の形の植木がお出迎え。メディア取材などもこれを目当てに訪れるそう

上連雀2丁目の竹内園の畑の入り口には、造園技術を活かし刈り込まれた、かわいい動物の形の植木がお出迎え。
メディア取材などもこれを目当てに訪れるそう


 

中央線開通の影響で離れた畑を管理している

竹内さん もともと野菜農家だった竹内家なんですが、その本宅・母家はJR(旧国鉄)中央本線が開通する前は現在の線路用地の北側にありました。そして、仕事をする畑は線路の南側にあったため鉄道開通で分断され、現在の本宅がある南側の土地に引っ越したというエピソードもあります。

その際、さらに南に離れた上連雀7丁目の一画に代替地として、行政に畑を用意・付与してもらったというちょっと歴史的な経緯があったりします。

 

こちらは、いろいろな苗木や幼木を育てている竹内家本宅向かいの畑の一部

こちらは、いろいろな苗木や幼木を育てている竹内家本宅向かいの畑の一部


 

– 具体的に力を入れている、もしくはこれから力を入れていきたい植木は何ですか

主に常緑樹、ドライガーデン植物など。特にアガベには注力

竹内さん 今後は常緑樹のほか、ドライガーデン、ロックガーデンといったスタイルの庭に用いる植物や造園に力を入れて生産・販売していきたいと考えています。常緑樹は庭木としては、落葉樹に比べて落ち葉はきなど手入れの手間が少なく、今では相対的に人気が上がり、扱う割合を増やしています。具体的な常緑樹の種類としては、ソヨゴ、トキワエゴ、ヤマボウシ、オリーブ、フェイジョアなどの木が挙げられます。
 

また、アガベを筆頭に多肉植物の栽培も年数はかかりますが、私の代で始めました。今後、ビニールハウスを増やしての増産も考えており、種類も増やして力を注いでいこうと思っています。多肉植物は若い人に人気なだけでなく、幅広い世代が「庭をおしゃれにしたい」と言って、実際に見学や買い求めに訪れています。
 

取り分けアガベは種類が豊富なため趣味で集めているコレクターの方も多く、庭に植えることもできるので人気が高いです。今後も需要があることを見込んでいます。

堆肥はお米屋さんの米糠と植木のチップを原料につくっている

竹内さん 畑の土に使う堆肥は、所有している大型粉砕機で植木をチップにしたものに米糠(こめぬか)を混ぜ、1年程度貯め、寝かせておいた自前のものを使用しています。米糠は地域のお米屋さんからいただいております。竹内園の畑のなかで原料を循環させることにつながっています。チップ堆肥は畑の道に敷くことで、雑草抑制や霜よけの効果もあります。

 

チッパー(大型粉砕機)で畑の植木を堆肥チップにしているところ。大きな音が出るので、近隣に気を遣い、タイミングを見計らって日中短時間で作業します

チッパー(大型粉砕機)で畑の植木を堆肥チップにしているところ。大きな音が出るので、近隣に気を遣い、タイミングを見計らって日中短時間で作業します


 

– 植木の販売をされているルートを教えてください

需要にあわせて販売ルートを変えている

竹内さん 竹内園の販売ルートは、おもにJA東京むさし・三鷹緑化センターへの出荷販売と一般の方の注文がそれぞれ3割ずつくらいで、植木市場での販売と事業者からの注文販売が2割ずつくらいといった感じです。

少し昔までは事業者への販売や地方の市場へ持っていって売ることが多かったのですが、近年は消費者へ直接販売する割合がじょじょに増えています。
 

木が大きく育ち過ぎてしまうと、都市部では売れなくなり、地方の大きな植木市場へ車で持って行って売るといったことも、ときには必要です。私たちは東京の2か所の市場のほか、山梨の河口湖のほうの市場へよく植木を持って行って販売させてもらっていました。植木販売にはそういった需給バランスがあるんです。
 

– 植木農家のお仕事や生産している品種・品目について教えてください

竹内さん 植木農家の仕事は、1日同じことの繰り返しというよりは時期によってけっこう異なり、1年ごとのサイクルになっています。

まず、1月からは落葉樹の移植などを行っています。そして、2月中旬頃から苗を育てるための挿し木を行います。3、4月はおもに植木の出荷。そして、5月は苗を畑に定植したりするのがメインです。
 

6月は、再び夏の挿し木をし、根回し(根を途中で切り落とし、新たな根の成長を促す)といった手入れ作業をしています。7月は畑の除草とブルーベリーの収穫・出荷などですね。9月には植木の枝の剪定(せんてい)があって、11月は落ち葉はきといった仕事があります。

お客さんから注文や見学の問い合わせがあった場合は畑を案内して、実際にいろいろな木を見てもらって、庭づくりの提案やコーディネートなどもします。自宅は造園のモデルハウスのようになっていて、それもお客さんに見てもらうことがあります。併せて造園工事も手がけています。

 

畑で生育中のヤシ。ここまで大きくするのにもかなりの年数を要するようです。根気と時間が必要なことが窺い知れます

畑で生育中のヤシ。ここまで大きくするのにもかなりの年数を要するようです。根気と時間が必要なことが窺い知れます


 

品種・品目について

竹内さん 今は大体約40種類くらいの植木を生産管理しています。具体的にはコニファー(ゴールドライダーなど)、オガタマノキ、キンモクセイ、ハナミズキ、モミジ、ヤマボウシ、シマトネリコ、南国系のオリーブ、ヤシ、ドラセナほかメキシカンプランツなどさまざまです。

イングリッシュガーデンのほか、近年ブームのドライガーデン、ロックガーデンなどにも対応できる形の植木をそろえています。

 

– 農家さんとしての「課題」があれば教えてください

効率の良い生産方法として省スペースでできる多肉・熱帯植物生産を模索

竹内さん 植木は出荷まで大体約5年と長い年数と手間がかかります。農家としての課題は、より効率の良い生産方法を模索し、実践していくことでしょうか。狭いスペースであっても作れるものを増やしていきたいし、ポットでの育成・栽培を増やせば、まとまった1か所で、省スペースで一斉管理できるので、普段の管理・作業もしやすくなってきます。

 

竹内園のビニールハウスのなかでは、省スペースでたくさんの多肉・熱帯植物がポットや鉢で育てられています

竹内園のビニールハウスのなかでは、省スペースでたくさんの多肉・熱帯植物がポットや鉢で育てられています


 

電動農機具の導入で環境配慮と効率化課題を解決

竹内さん 2016年頃から農作業で使用する器具をガソリン式のものから、電動の充電バッテリー式のものに順次買い替えていっています。チェーンソー、ブロアー(落ち葉掃除に使う風を出す器具)、刈り払い機、バリカン、消毒器などは今電動のものになっていますね。電動農具の購入資金に関しては、JAからの補助も出るのでありがたいです。
 

違いは2つあって、まず電気で動くので、ガソリンのものに比べて二酸化炭素を出さないこと。環境への配慮になっていると思います。意外とパワーもあって使えるんですよ。

そして、作業効率面でも良い影響がありました。電動農具の方が稼働音・駆動音が抑えられ、それによって実際作業者の負担や疲労感が減るんです。これはけっこう良い効果だと実感しました。

 

竹内園で農作業用に使われている電動農機具類(一部)。環境配慮だけでなく、作業時の音による負担も減ったと竹内さんは話します

竹内園で農作業用に使われている電動農機具類(一部)。環境配慮だけでなく、作業時の音による負担も減ったと竹内さんは話します


 

– 農家さんとしてこれから考えていることについて教えてください

“いまの需要”に合わせた植木生産へのシフト。EC販売など新しい売り方も視野に。

竹内さん 植木や庭には、時代によって変わる消費者ニーズが存在しています。そういった需要の変化にも対応し、歩調を合わせながら植木の生産、販売の仕方をしていきたい、というのは常に考えています。
 

私が始めた多肉植物も扱いを増やしながら、今後は竹内園としてインターネット・ECサイトで販売したり、SNSを活用したりといったことも考えていきたいですね。ブルーベリーは売りの一つとしてもっと推せる部分かもしれません。アガベを使って何かできるかもしれませんし、今はその可能性を模索中といった感じです。
 

畑に来てもらって植木農家というものについてもっと知ってもらうPRイベントや、畑に植えられたもみの木などを活かした木のワークショップなんかがやれたらいいなと考えています。

 

ブルーベリー畑

竹内園のブルーベリー畑


 

「植木の地産地消」も推進する働きかけを

竹内さん 庭木や緑を扱っている仕事なので、三鷹という街をはじめとして、その自然の維持を継続していきたいです。「地産知育」や「地産地消」という言葉もありますが、植木も含めてそれだけでなく、公共の施設や公園などにもっと三鷹産のものを使い、増やすといった働きかけや発信をしていければと思います。そのために、より地域との関わり方や相互のつながりを深めていければいいですね。

 

– 竹内さん、ありがとうございました

竹内さんの生産品リスト
<植木>
ソヨゴ、トキワエゴ、ヤマボウシ、オリーブ、フェイジョア、コニファー(ゴールドライダーなど)、オガタマノキ、キンモクセイ、ハナミズキ、モミジ、ヤマボウシ、シマトネリコ、アオダモ、アオハダ、ツリバナ、オリーブ、ヤシ、ドラセナ、ほかメキシカンプランツ、アガベなど多肉植物、計40種程度
 

<果樹>
ブルーベリー(ティフブルー、ラビットアイ)

 

竹内園が生産した植木、多肉・熱帯植物が購入できる場所

JA東京むさし 三鷹緑化センター
所在地: 〒181-0004 東京都三鷹市新川6丁目30−22
TEL:0422-48-7482

 

取材:石井 将直 / 苔口 昭一
文 :石井 将直
撮影:石井 将直 / 苔口 昭一
 

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